
プラント配管の点検・保守が重要な理由
配管はプラントの血管にあたります。流体の漏えい・腐食・目詰まり・振動による疲労破壊など、目に見えにくい小さな劣化が生産停止や事故につながります。とくに高温高圧・薬液・可燃ガスを扱う設備では、点検と計画的な保守が安全と収益の両面を支えます。ここでは初心者にもわかりやすい点検・保守の流れ、現場で使えるチェック観点、そして配管工の仕事像と求人情報の見極めポイントまでをまとめます。
年間サイクルで考える点検・保守の全体像
点検・保守は「思いついたときにやる作業」ではなく、年間サイクルで設計するのが鉄則です。設備停止期間(定修)と稼働中点検(オンストリーム)を組み合わせ、法定点検・社内基準・予算を一体化させて計画化すると、ムダな停止を抑えられます。
年間計画の基本構成
・対象範囲:配管系統図(P&ID)で系統を網羅
・頻度設計:流体・温度・圧力・腐食環境で優先度を決定
・検査手法:目視・寸法・厚さ測定・NDT(非破壊検査)を割り付け
・予備品:ガスケット、バルブパッキン、支持金具などを所要量で手配
・人員配分:日常点検班/定修工事班/緊急対応チームの役割明確化
年間計画を立てたら、四半期ごとに実績と異常傾向をレビューし、腐食速度や漏えい件数の推移から翌期の頻度や手法を見直します。記録は後述のデジタル管理とあわせて標準化しましょう。
日常点検:現場で見る“5つのサイン”
日常点検は短時間でも確実に。まずは次のサインを外観から拾います。
・漏えい跡:フランジ合わせ面・ねじ込み部の染み、固着粉
・腐食・減肉:塗膜の膨れ、赤錆・緑青、アンダーラスト
・断熱材の異常:濡れ・剥がれ・浮き(CUI=断熱下腐食の前兆)
・支持金具・ハンガー:緩み、偏荷重、スライド不良
・振動・騒音・温度異常:ポンプ停止時との差、触診での微振動
見つけた異常は、系統・位置・症状・初見日・写真をセットで残します。小さな違和感を“記録できる言葉とデータ”に変えるのがプロの点検です。
定修(シャットダウン)時の重点チェック
稼働中にできない内部確認は定修で実施します。安全養生とガスフリーを確実に行い、以下を重点的に。
フランジ・継手・バルブの健全性
・ガスケット面の傷・腐食、座屈有無
・ボルトの伸び・座面固着、トルク管理の履歴
・バルブの開閉トルク、シート・パッキン摩耗
定修は“分解したから安心”ではありません。復旧時の締付け手順、対角締め、潤滑剤の可否、トルク証跡まで含めて品質です。手順書と実測値の突合で再現性を担保します。
非破壊検査(NDT)の使い分け
配管の減肉や欠陥はNDTで定量化します。用途に応じて組み合わせるのがポイントです。
代表的な手法と使いどころ
・超音波厚さ測定(UT):減肉の定量把握に最適。測定点マップ化が肝
・磁粉探傷(MT)/浸透探傷(PT):表面割れの検出。溶接部の健全性確認
・放射線透過(RT):内部欠陥の可視化。ただし遮蔽・調整コストに留意
・渦流探傷(ET):非接触で迅速。材質や曲面適用は事前検証
・赤外線サーモ:断熱下のホットスポット、漏えい兆候のスクリーニング
NDTは“撮った/当てた”で終わらせず、減肉年率を推定して次回検査時期や交換時期を逆算します。
腐食・劣化メカニズムの基礎理解
メカニズムを知ると対策が選べます。実務で頻出するものを押さえましょう。
よくある劣化の例
・CUI(断熱下腐食):断熱材吸湿→濡れ乾きの繰り返しで外面減肉
・流速腐食/キャビテーション:高流速やポンプ近傍での侵食
・SCC(応力腐食割れ):塩化物×オーステナイト系×引張応力
・MIC(微生物腐食):冷却水や停滞区間での局部腐食
・電食:異種金属接触・接地不良での電位差腐食
対策は、被覆・材料変更・カソード防食・水質管理・支持条件見直しなど、原因にひもづく形で設計します。
予防保全×予知保全:壊れる前に手を打つ
“壊れたら直す”から“壊れる前に換える”へ。さらに“壊れそうを当てて延命する”のが予知保全です。振動・温度・圧力・流量・腐食プローブのデータを常時監視し、しきい値だけでなく傾向(トレンド)で判断すると計画停止と部材手配が間に合います。小さな部品の先手交換が、大きな停止リスクとコストを抑えます。
作業安全:ゼロ災に近づくための型
配管は高所・溶接・開放作業が絡みます。安全の型を徹底しましょう。
現場で必ずやる3ステップ
・LOTO(施錠・タグ付け):エネルギー分離の二重化
・アトモスチェック:可燃性ガス・酸素濃度・有害ガスの連続監視
・作業許可:熱作業・密閉空間・高所の許可票と立会い
“当たり前”を毎回やることが、技能差より強い安全力になります。
チェックリスト例:初日に使える観点
・系統/バルブ番号/材質/口径の確認
・フランジ増締め履歴とトルク値の記録
・支持金具の種類(固定・ガイド・スライド・スプリング)と機能
・断熱材の継ぎ目・端末シール状況
・ドレン・ベントの閉塞有無、キャップ固着
・腐食速度推定(厚さ実測差/経年)と次回時期案
・是正処置のレベル(即時/短期計画/次回定修)分類
記録とDX:CMMSで“現場の知恵”を資産化
紙の点検表だけでは活かし切れません。CMMS(保全管理システム)や表計算でも良いので、タグ番号単位で履歴・写真・図面・発注情報をひもづけます。QRコードで現場から即入力できる仕組みにすると、点検→判断→手配が一本化。さらにBIで“どの系統がコストを食っているか”が見えると、更新投資の説得力が上がります。
コスト最適化:全部やるのではなく“リスクベース”で
限られた予算で最大の安全・稼働率を得るには、RBM(リスクベースメンテナンス)の考え方が有効です。発生確率×影響度で優先順位をつけ、重要配管(高温高圧・危険物・ボトルネック)は頻度高め、冗長性があるラインはスクリーニング中心にするなど、強弱をつけます。部材は標準化・共通化して在庫点数を減らし、緊急時は“交換で直す”方針を徹底するとダウンタイムが短縮します。
外注・協力会社の選び方
継続パートナーを選ぶ基準は、価格だけではなく“守る力”です。
評価ポイント
・施工・検査の資格保有と更新状況
・手順書・写真・計測値の提出品質(バラつきの少なさ)
・緊急時の到達時間と代替案提案力
・是正提案の具体性(材質変更案、支持改良案、断熱納まりの見直しなど)
単発発注より、KPI連動の年間契約にすると、品質とスピードがそろいやすくなります。
新人・若手に任せたい“配管点検の型”
配管保全は経験が効く仕事ですが、型を教えれば戦力化は早まります。まずは“見る位置・触る順番・記録の粒度”を統一。次に先輩と同じ写真を撮り、同じ観点でコメントをつけ、差分をレビューする仕組みが効きます。NDTは測るだけでなく“測定点の再現性”を重視し、マーキング・図面落とし込み・測点台帳を徹底しましょう。
キャリアと求人:配管工・保全技術者の将来性
プラントの脱炭素・老朽更新・安全規制の強化で、配管の保全需要は底堅く伸びています。実務では、玉掛け・酸欠作業・高所作業主任者・溶接関連・非破壊検査の基礎資格が入り口です。そこから、監督・工程管理・RBM策定・CMMS導入などへとキャリアを広げる道があります。求人を選ぶ際は、手当や日当よりも「教育投資」「安全文化」「記録と改善の仕組み」があるかを重視すると、長期的な市場価値が高まります。
求人票でチェックしたい具体項目
・定修と日常保全の比率、夜勤/緊急対応の体制
・資格取得支援と受験・更新費用の会社負担
・一人作業の可否とリスク評価ルール(複数人作業の基準)
・点検結果のレビュー会・改善会議の定例化
・服装・保護具・計測器の会社貸与範囲と更新タイミング
「安全と品質はコストではなく稼ぐ力」――この価値観を共有できる職場こそ、技術者が長く働ける環境です。
明日からできる“配管保全の小さな改革”
最後に、すぐ実践できる改善案を3つ紹介します。
1)“同じ構図の写真”ルール:フランジは必ず正面・側面・銘板の3枚をセットで。比較が容易になります。
2)“測点の座標化”:UT測点は距離×角度で記録し、次回も同位置を測れるようにします。
3)“是正レベルの色分け”:赤=即時、黄=短期、青=次回定修で是正。現場掲示とCMMSで統一します。
小さな仕組みが積み重なると、重大トラブルの芽は確実に減ります。配管は止めてから直すのではなく、動かしながら守る。現場とデータをつなぐ保全で、プラントの生産性と安全性を一段引き上げていきましょう。